我々の空撮現場では操縦者と機体監視者、そして飛行経路付近の警備要員など現場では相互の状況を短時間で的確に伝える必要があり、特に市街地など周囲に危険を伴う飛行条件では一瞬の連絡の遅れが事故に繋がるおそれがあり、同時通話できるインカムは必須でした。
従来の国内小電力方式の双方向同時通話できる無線機を使用してのインカムは3分間という発信時間制限があったり、通信可能な距離が数十メートルであったりと、同時通話モードにすると電波法がらみの制約があり何かと苦労しました。
現場によっては操縦者の位置から警備要員の位置まで200m~300m離れることも有り、市街地の場合は電波の飛距離も短くなることから、同時通話を諦めて片方向通話で行ったりしていたのですが「Solidcom M1」は通信距離1000ft(約300m)、基本セットで8人同時通話、3グループに分割通話可能、親機はカメラ用バッテリー(SonyF970×2で16時間間)・子機は内臓型交換可能バッテリーで20時間駆動可能という仕様!
従来の高価な国内メーカーの同時通話インカムと同等以上の性能を持ちつつ、小型・ローコストという魅力に惹かれモニター使用してみました。
ペリカン型ケースは上下二段になって、親機・子機8個・ヘッドセット8個・アンテナ・充電器など全てがコンパクトに収納されている。
今回使用したのは、近々空撮予定の配送施設のロケハン・テストフライトの現場です。
施設の全景を撮る為には北西側の緑地周辺での飛行となりますが、現地の様子を伺ってると、施設横の道路歩道と緑地内の散歩道に時折歩行者が通るため、航空法に定められている第三者の安全を確保するよう、それぞれ歩行者の導線に警備要員を1名ずつ配置しての飛行となります。
機材準備が済んで、撮影内容の確認・飛行コースの確認を撮影ベースに居る操縦担当とカメラ担当が行い、全てクリアになったところで、これから飛行させる旨を離れた警備担当にインカムで伝えます。
警備Aは30m程の距離ですが、警備Bはドローンの撮影スタート位置に近い所にいるので、約100m離れており、まず子機の電波状況を尋ねるとAB共に表示はバリ3本立っており、ノイズも無く非常にクリアとの事、音の遅延は良くあるIPトランシーバー程度の0.5秒以下の遅れなので、実用上問題ない感じです
ちなみにせっかくのテストなので、警備Bにそのまま更に離れてもらったところ、ベースから150mの地点で表示が2本となりました。
今回はテストフライトだったので、M1の親機をベースカートに直置きで使用した為、本体の三脚ネジ(3/8インチ)を使い、見通しの効く、もう少し高い位置にスタンドで固定すれば更に飛ぶのだろうと考えます。
ベースの親機の表示(シンプルで状況が分かりやすいです)
警備側、操縦側それぞれに問題無い事を確認して、いよいよフライトさせます。
今回使用のインスパイアー2クラスの中型機以上になりますと、飛行の際も周囲の状況により慎重になります。
離陸させ、機体の挙動チェックをした後、必要高度まで上げてスタート位置まで送り出します。
高度70m付近のスタート地点でカメラアングルを見ながらカメラ担当が操縦担当に指示を出し、高さや位置の微調整をします。引き目で自然の豊かな環境を見せてから近代的な設備が分かる工場付近まで前進するカットです。
そのスタート位置の微調整中に警備Bから連絡!「緑地内を犬の散歩中の方が近づいている」との事、操縦者の判断ですぐに安全確保の為、機体を安全なエリアに移動させ歩行者が飛行コース付近から離れるのを待ちます。1~2分後、歩行者が離れたのをインカムを通じ互いに確認後、再びスタート位置に移動させ「ではスタートします」「止まり位置は警備Aの頭上付近になるので、付近の歩行者等に気を付けて下さい」と操縦者から全員に発声し、すぐに「A了解!」「B了解!」と返信が戻ります。そして本番と同じ動きで問題点が無いかカメラも録画しながら検証飛行します。
1回目は移動スピードとカメラの動きがチグハグになり、短時間で互いに解決法を決めた後、再びスタート位置に戻し2回目のテスト。今度は絵的には纏まりましたが、警備Aが止まり位置付近にいる為、絵に見切れる(写り込む)という事が判明し、急ぎ後ろにある木の茂みの裏側に隠れるようインカムで指示。3回目のテストでようやく問題の無いカットにする事が出来ました。
着陸させてから、全員で録画プレイバックして、後日の本番時の各々の役割の再確認や疑問点の整理などをして、この日のテストフライトを終了しました。
終了後、全員でSolidcom M1の感想を話しましたが「子機もヘッドセットを差して電源ボタンを押すだけで使用可能なので準備が簡単で良い!」 「大型の密閉型ヘッドセットなので道端など騒がしい所でも聞きやすい」 「遅延もほとんど無く音質はクリアで聞きやすい!」 「子機8個セットなので、全員が付けることによってこれまでより、細々した情報伝達が共有できる為、慌ただしい現場で誰かが「聞いてない」という事が無くなる」など、スタッフの評判は非常に良く、これからの多人数の現場はこれ必須だな!という意見で纏まりました。